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函館地方裁判所 昭和39年(行ウ)2号 判決

原告 丸金運輸株式会社

被告 北海道開発局長

訴訟代理人 山本和敏 外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

(原告)

被告が昭和三七年一〇月五日原告に対してなした

一、負担金は一二七万五一一七円とし、当局函館開発建設部徴収官の発行する納入告知書により納入すること。

二、履行期限は昭和三七年一一月三日までとする。

との原因者負担金負担命令を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

旨の判決を求めた。

(被告)

主文と同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

(原告)

一、被告は、昭和三七年一〇月五日、原告に対し、道路法第五八条第一項の規定に基づく原因者負担金負担命令を発した。

その内容は、昭和三六年八月一七日午後四時ごろ、原告の使用する運転手訴外岩沢一徳の運転する普通貨物自動車(函一あ〇三〇四号ヂーゼル五七年型)が北海道開発局の管理する二級国道小樽江差線瀬棚郡北檜山町字長淵地内の真栄橋を重量制限違反のため損壊した事件について、前記法条の規定に基づき、原告に対し右橋を復旧するに要した経費およびその他の経費の負担を命ずる、負担金は一二七万五一一七円とし、函館開発建設部歳入徴収官の発行する納入告知書により納入すること、履行期限は昭和三七年一一月三日までとするものである。

二、原告は右処分を不服として、同年一一月一七日、建設大臣に審査請求をしたが、同大臣は、同三九年六月一一日、原告の審査請求を棄却する旨裁決し、右裁決書の謄本は、同月一八日、原告に到達した。

三、被告が原告に対し右負担命令を発した理由は、要するに、右真栄橋は岩沢一徳の運送中の不法行為により損壊したものであるが、右運送行為は外形上からみて原告の事業執行行為に属し、原告の岩沢一徳に対する選任監督が十分でなかつたことによると認められるので、民法第七一五条の趣旨に従い、原告において、橋の復旧工事の費用を負担すべきであるというにある。

四、しかしながら、右負担命令は次の理由で違法である。

(1) まず第一に、右落橋が岩沢の過失によるものであることについては争わないが、岩沢の右損壊行為は原告の業務の執行に際してなされたものではない。すなわち、原告は、昭和三六年八月一二日、荷主である訴外奥村土木との間に、ブルドーザー(三菱BB五型一〇トン、ただし排土板およびアーム等を取除いたもので、自重は約七・五トン)を貨物自動車により上磯郡木古内町字下中野一八番地大川橋麓(木古内町国道から一キロの地点)から八雲経由瀬棚郡今金町字日進所在日進小学校前まで(奥村土木の希望は瀬棚郡北檜山町字貉岱まで運搬することであつたが、同所までの道路および橋梁の状況が重量物の輸送に不適当であるとの原告の主張により日進までとなつたもの。)約一五〇キロを運賃三万五〇九〇円で運搬する旨の契約を結び、右契約の趣旨に従い、岩沢は右順路によつて日進小学校前まで運搬すべきであつたにもかかわらず、荷主の代理人である訴外樋口時正が運送途中で勝手に岩沢に指示して日進小学校を遙かに超えて契約外のルートを進行させ、貉岱まで運行させた際に生じた出来事であるから、荷主によつて支配された運送契約外の運送による事故であり、従つて原告の業務執行の範囲に属さず、原告には何らの責任がない。なお、樋口は訴外三高商店函館支店に勤務していて、奥村土木の依託により、その代理人として本件運送契約締結の衝に当り、当日は、ブルドーザーの排土板やブルドーザー積卸に必要な諸道具類を積載した訴外有限会社横山組の貨物自動車に同乗して岩沢の自動車に先行し、到達地で荷主に代りブルドーザーを受領する権限があつた。

(2) かりにそうでないとしても、原告には岩沢の選任監督について何らの過失もない。すなわち、原告は、昭和三五年一二月五日、岩沢の大型運転の技術を確認したうえで同人を採用したもので、その後同人の勤務状況は極めて真面目で、技術においても熟達し、慎重であり、本件契約上の路線も二回の経験がある。本件については、運送品の種類、運送区間、荷卸地点、受取人の氏名はもちろん、契約成立のいきさつ、運送品の積卸、引渡について具体的な方法等万全の教示を同人に与え、さらに北海道主要路線粁程図(甲第一号証)によつて出発地から到達地点までの運送経路の指定、途中の道路の状況、ことに危険推測箇所通過の際の安全確認の方法等重量物運搬について特に注意遵守すべき事項とその対策を詳細に指示して選任監督に相当の注意を怠らなかつた。

(3) かりにそうでないとしても、被告は、昭和三五年一〇月以降、本件橋について通行車輛に五トンの重量制限を設けていながら、実際は自由に右制限を超過する車輛を通過させていて、必要な万全の措置をとつていなかつたので、これは被告の道路管理に過失があるものというべく、原告の過失はこれと相殺さるべきものである。すなわち、本件事故前真栄橋を通過する道路を函館バス株式会社の運行するバス(以下単に函館バスと略称する。)が、東瀬棚より神浦まで一日一往復、東瀬棚より若松まで一日一往復、東瀬棚より久遠まで一日二往復それぞれ往来していたものであるが、右路線に使用されていたバスは左表のとおりで、いずれも五トンの制限を超えている。

番号

銘柄

年式

自重(トン)

定員(名)

総重量(トン)

函二あ一四九

いすず

一九五二

八・四〇五

五六

一一・四八五

〃 一六〇

一九五四

五一

一〇・八五〇

〃 一六二

八・二三〇

五二

一一・〇九〇

〃 一六三

〃 二〇四

ふそう

一九六〇

九・六二五

六一

一二・九八〇

〃 一八一

一一・〇二五

六七

一四・七一〇

〃 一八二

一九五二

一〇・一四〇

六四

一三・六六〇

〃 一八三

一九五四

一一・一二五

六七

一四・八〇五

〃 一八四

一〇・七九五

六六

一四・四二五

〃 一八五

一一・三〇〇

六八

一五・〇四〇

〃 一八六

一九五五

一〇・二〇五

六九

一五・六五〇

〃 四

九・七〇五

五一

一二・五〇五

〃 九

一九五六

一〇・〇四〇

五四

一三・〇一〇

〃 七六

一九五四

一〇・八四五

六九

一六・二九〇

〃 九二

一九五八

一一・〇九五

六三

一四・五六〇

さらに右以外にも重量制限超過のトラツクが多数往来していて、その中には開発建設部の工事に従事するトラツクも含まれている。右は明らかに被告の本件道路の管理に過失があるというべきである。

(4) かりにそうでないとしても、岩沢の行為のみが落橋の唯一の原因と認め難いから、原告に工事費用の全額を負担させることは失当である。すなわち、道路に関する工事の費用は原因者の行為のみがそれを必要ならしめた唯一の原因とは認められない場合や、また原因者の負担によつて原因者以外にも利益を受ける者があるため、道路法第五八条第一項は全部または一部といつて、必ずしも全額を負担させるべきものとはしていない。

真栄橋は昭和三一年一月架橋されて以来、二級国道小樽江差線の一部として、一般通行の用に供され、その交通利用による損耗老朽により、同三五年一〇月、車輛につき五トンの重量制限がなされ、引き続き利用され老朽化が進められてきたのであるから、これを利用する者がすべてある程度これを損傷し、落橋の一因を与えたものであつて、岩沢の行為のみが唯一の原因とはいえないから、かかる場合には原告に工事費の全額を負担させるべきではない。

よつて被告の原告に対する本件負担命令は違法であるからその取消を求める。

(被告)

一(1)  原告主張の第一項の事実は認める。

(2)  同第二項の事実は認める。但し裁決書謄本の到達の日は知らない。

(3)  同第三項の事実は認める。

(4)  同第四項(1)の事実中、岩沢が原告の被用者であること、排土板等が他の自動車に積載されたことは認めるが、ブルドーザーの型式、重量は否認する。その余の事実は知らない。かりに樋口の行為が介入したとしても、岩沢の運行がそのため原告の事業の執行でなくなるものではない。

同項(2)の事実は知らない。

同項(3)の事実中、函館バスの自重および総重量等ならびに制限超過のトラツク等の通過の事実は否認する。バスの運行回数については知らない。かりに甲第三号証記載のような総重量を有するバスが運行されていたとしても、総重量とは当該車輛に定員一杯の乗客が乗つたと仮定して自重と総人員の体重とを加えたものであるから、現実にはこれがそのまま真栄橋にかかる荷重となるものではない。

二、被告が原告に対し、本件負担命令を発した経緯は次のとおりである。すなわち、原告の被用者岩沢一徳は、昭和三六年八月一七日、原告の事業の執行のため、原告所有のトラツク(函一あ〇三〇四ふそうT三二B一九五七型自重六トン一八〇キロ)に訴外奥村土木所有のブルドーザー(三菱BD一一型重量一一トン、排土板、アームを除いて約八トン九〇〇キロ)を排土板およびアームを取り外して積載し、上磯郡木古内町字中野七六番地の下中野橋右岸の地点から函館市、森町、八雲町、今金町字日進小学校前を経由して同町貉岱の訴外田中組日進貉岱線工業現場へ向い、二級国道小樽江差線を運行中、同町字長淵地内の真栄橋にさしかかつた。当時の真栄橋は、昭和三一年一月利別川に架橋された延長八四メートル五〇センチ、幅四メートルの木造ポニートラス橋で、老朽化し、同三五年一〇月から被告の管理権に基づき、運行車輛に対し五トンの重量制限を行つていた。岩沢は自分の運転する車輛ならびに積載したブルドーザーの重量が右制限重量をはるかに超過するものであることを知りながら、敢えて制限を無視して真栄橋を通行したため、同日午後三時五〇分ごろ、同橋の貉岱側のポニートラス一連二二メートルおよび桁橋一連五メートルが過大な荷重に堪えきれず、一瞬にして崩壊し、右車輛、ブルドーザーもろとも河中に落下した。右のとおり真栄橋の落下は重量制限に違反した岩沢の過失によるものであることは明らかであり、また同人の右運行は原告の事業の執行としてなされたものであることは、運行の目的、外形いずれからみても否定の余地がないから、原告は道路法第五八条第一項により右落橋による真栄橋復旧工事費を負担すべき立場にあるので、被告は権限に基づき原告に対して本件命令を発したものである。

三、被告が原告に対してした本件負担金負担命令は適法なものである。原告が道路法第五八条第一項に全部または一部とあることを理由に、岩沢の行為のみが落橋の唯一の原因でないから、原告に真栄橋復旧費用を全額負担させるのは違法であると主張するのは、法の規定を誤解したもので失当である。すなわち(柳瀬良幹、公用負担法六〇頁((法律学全集))によれば)、同条項は講学上いわゆる特別負担に属するもののうち、(イ)狭義の原因者負担および(ロ)損傷者負担を定めたものであり、後者(ロ)は損傷の結果すなわち施設の損壊を原因として補修工事が必要な場合に関し、前者(イ)は他の事業行為をなすかぎり施設の移転改修を必要とするすべての場合に妥当し、損傷の結果の発生を必要としないものである。

(イ)の場合は受益者負担を課する余地があるので、必ずしも費用の全額を負担せしむべきでない場合もあるが、(ロ)の場合は一部負担でなければならない理由はなく、実質を考察して決すべきものであるところ、本件は右(ロ)の損傷者負担を定めた場合に当り、真栄橋は前示二級国道小樽江差線の一部で道路法上の道路に該当し、その使用に伴つてなにほどかの損耗を生じるのは当然であり、その損耗が当該公物に許された一般使用の限界内の使用、従つて、通常の車輛、人馬の通行によつて生じた道路の通常の損耗である限り損傷者負担の対象ではないが、一般使用ではあつても、使用方法の制限を無視しまたは通常許される使用方法を逸脱して使用したことによつて当該道路を損傷したときはその行為をした者に対し、その費用をもつて当該損壊部分を原状に復し、もしくは復せしめるべきもので、道路法第二二条第一項はこのような一般使用の限界を逸脱した違法な使用によつて道路が損傷した場合に、損傷者に対し当該損傷に因り必要を生じた道路工事(補修その他の原状回復工事)の施行を命じることができることを定めているが、このような施行命令(いわゆる施設負担)だけでは損壊した道路の早急な回復を期待できない場合が多く、また損傷者が、常にこのような原状回復工事の能力を有するとも考えられないので、同法第五八条第一項は原状回復工事を道路管理者の手で行い、損傷者からはその費用(いわゆる負担金)を徴収する途を設けたものである。

このように施設負担に関する道路法第二二条と負担金に関する同法第五八条とは表裏一体の関係にあり、その趣旨はいずれも道路の機能の原状回復にあり、被告はこれを前の施行命令の方法によるか、後の負担金負担命令の方法によるかを選択しうるものである。本件において原告は真栄橋を落橋前の原状に回復すべき責任を負うのが当然であつて、道路機能の早急な回復および工事施行の安全、確実性を考慮し、被告が負担金負担命令の方法によつたもので、被告の施行した工事が真栄橋の機能を原状に回復するにとどまり、原告の負担を軽減する意味で構造の単純な桁橋でつないだのであるから、これに要した費用は工事施行命令に代るものとして原告が負担すべきものである。

以上の理由によつて明らかなように、原告に対する本件負担金負担命令は、原告に対し私法上の損害賠償を命ずるものではないから(その実質が損害の補填の意味を有する部分があるにしても)、私法規定の適用はないといわなければならない。

四、従つて原告のいう過失相談に関する民法第七二二条第二項等が適用されるものではない。かりに右私法規定が適用されるとしても、被告は道路管理者として制限重量を明示し、これを超える重量の車輛の通行を禁止する旨の警告標識を見易い場所に立てることによつて管理義務を尽くしたものである。これ以外に現実に可能な制限措置は、現在の情勢では考えられない。万全の措置という意味では橋の両側に看視員と非常に大きな秤を置き、遮断機を設置すればよいであろうが、そのような施設を全国の重量制限箇所に設置することは現実的ではない。被告の管理義務は充分尽くされていたものというべきである。原告車が五トンの制限重量を遙かにこえる一五トンもの荷重の車輛を通行させ、それが原因となつて本件落橋を招いたものである以上、原告のいう過失相殺の主張は理由がない。

五、さらに、原告のいう本件落橋の原因は、単に岩沢の運転に起因するだけではないとの点については、かりに原告の主張するように、他にも五トンの制限を超過する車輛が通行した事実があつたとしても、それが原告の責任を軽減する事由となるものではない。一般に橋梁等での重量制限を行う場合、制限重量を〇・一トンでも超過すれば直ちに落橋その他の橋梁損傷を来すものではない。制限重量をこえてもなお相当程度の荷重までは耐えうるよう安全性を考慮に入れた重量制限を施すのであるがこのような安全度にもおのずから限界がある。原告の挙げる函館バスの車輛の運行は、毎日定期的かつ長期間にわたつて繰り返えされているにもかかわらず、真栄橋を一般使用の結果以上にとくに著しく損傷した形跡は全く存在しないから、たとえ五トンを若干超過して運行した事実があつたとしても、それは負担命令の原因となる損傷行為といえない。本件の原告車の制限重量の三倍にも及ぶ荷重が働いては到底落橋は免れえないところであつて、これが本件負担金負担命令の原因たる損傷行為なることを左右するものではなく、原告をして費用の全部を負担せしめる妨げとなるものではない。

六、さらに、かりに原告の主張するように、本件につき私法規定の適用があるとするも、原告車のした落橋は少くも共同不法行為となるから、民法第七一九条第一項の法理により、原告が本件復旧工事費用の全額を負担することを免れないことになる。

七、本件負担金算出の内訳は次のとおりである。すなわち、真栄橋は北海道開発局において昭和三六年度から同三八年度までの三カ年において永久橋化する計画があつた事情から、右落橋部分の復旧工事は長年月に亘る耐久力を必要としなかつたので、落橋前の効用(荷重五トンに耐える安全性)の再現にとどめることとし、かつできるだけ原因者の負担が低くなるよう他の型式と比較検討した結果、右落橋部分は木造ポニートラス一連二二メートルと桁橋一連五メートルの合計二七メートルであるが、ポニートラス型式をとらず、落橋部分すべてを桁橋型式とする方が工費が低廉であることが判明したので、これにより、かつ可能な限り従前の材木を使用して施行した結果、工事費総額は一二八万四七〇四円を要したが、再使用しない古材および古金物を、古材については瀬棚地方における雑薪の相場により、古金物については、同三七年五月の函館における一級品の価格をもつて評価し、合計九五八六円八六銭を右工事費から差し引いた一二七万五一一七円を原告の負担金として算出したものである。

よつて原告の本件請求はいずれの点においても理由がない。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、被告が原告に対し、昭和三七年一〇月五日、道路法第五八条第一項の規定に基づき、原告主張の如き内容の原因者負担金負担命令を発したこと、右負担命令の内容が原告の主張するようなものであること、原告が右負担命令を不服とし、同年一一月一七日、建設大臣に審査請求をなし、同大臣は、同三九年六月一一日、右審査請求を棄却する旨の裁決をなしたことは当事者間に争いがない(本訴が提起されたのは昭和三九年七月一七日であることは記録上明らかであつて、これが右裁決のなされた日から三箇月以内であることも計数上明らかであり、右裁決の謄本自体が原告に送達されたことは当事者間に争いのないところであるから、原告は右の裁決のあつたことを知つた日から、右の三箇月の期間内に本訴を提起したことも明らかである。)。

しかして、証人徳山千代治の証言ならびに右証言により真正に成立したと認められる乙第一、第三、第一〇、第一一号証を綜合すると、右負担命令に定められた負担金額は以下のようにして算出されたものであること、すなわち、真栄橋は数年後に永久橋に架けかえられる予定になつていたところから、それまでの期間五トン程度の車輛の通行に堪え得る程度のもので、且つでき得る限り価格の低廉なものとするため、損壊前のポニートラス型式をとらず桁橋形式で修復することとし、従前の古材も使用可能のものは使用して施行した結果、桁上工として七〇万〇九〇七円、橋脚工として四三万〇〇六六円五六銭、雑経費として一万五三三三円、機械損料として二六九五円、迂回路補修費として一万八九一一円六〇銭の各費用を要し、その合計額の一〇パーセントの事務費一一万六七九一円を加えて総計一二九万四七〇四円が真栄橋補修工事に要した費用となるところ、再使用できなかつた古材および古金物があるので、古材については瀬棚地方における雑薪の相場を参考にし、古金物については昭和三七年五月の函館における一級品の相場によりそれぞれ評価して古材を七七五六円〇八銭、古金物を一八三〇円七八銭と算出し、これを右工事費から差し引いて金一二七万五一一七円を原告の負担金と定めたものであることが認められる。

二、まず法令を調べてみるに、二級国道の維持修繕等の管理は都道府県知事がそれぞれの路線の当該都道府県の区域内に存する部分について行い、その費用は都道府県の負担とすることは道路法第一四条、第五一条の規定するところであるが、しかし、特に北海道の区域内の国道の管理については建設大臣がこれを行い(道路法施行令第三三条)、その費用は国の負担とする(昭和四〇年三月二九日政令第五七号による改正前の同令第三一条)。そして同法第九七条の二は、道路法に規定する道路管理者である建設大臣の権限の一部を政令の定めるところにより北海道開発局長に委任することができる旨規定し、同令第三九条は建設大臣の右の権限の委任について規定しているところ、法第五八条第一項によれば、道路管理者は他の行為に因り必要を生じた道路に関する工事の費用については、その必要を生じた限度において、他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一部を負担させるものとする旨定められ(原因者負担金)、令第三九条第一七号により右負担金徴収の権限は道路管理者である建設大臣から北海道開発局長に委任されている。

三、そして本件落橋した真栄橋は二級国道小樽江差線の一部であること、右橋梁には重量五トンの通行制限がなされていたこと、右落橋は原告会社のトラツクがブルドーザー(但しその型式重量の点はさておく。)を積載し、その被用者岩沢一徳において運転してこれを通行中に惹起したものなること、道路管理者が右の橋の修復工事をなしたことは弁論の全趣旨において当事者間に争いがないが、その道路管理者が右修復工事に要した費用につき、さきに認定した金額を原因者負担金として、徴収権限を与えられた被告より、その原因者は原告であるとして原告に対して負担命令がなされたのに対して、原告はかかる原因者でなく負担金を負担せしめられるいわれはないとして争い、その理由として、原告会社の本件トラツクの運行は、木古内から日進までは原告会社の業務執行であるが、同所以遠の真栄橋を通り貉岱までの運行は原告会社の業務ではなく、同所以遠の本件真栄橋上の運行も亦原告会社の業務執行ではないからであるというのである。

四、しかしながら、原告がトラツクを用い運送業を営む会社であつて、奥村土木の注文により原告所有のトラツクによりブルドーザーの輸送を請負い(但し、両名間の契約上の輸送区間が木古内から日進小学校前までであるか、或は同所以遠の貉岱までであつたかどうかはさておく。)、原告の被用者岩沢一徳をしてその運行をさせたこと、ならびに真栄橋の落橋につき岩沢一徳に過失があつたとの点については原告の自認しているところである。

五、成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、二、証人奥村繁雄、同樋口時正、同大西孝吉の各証言および原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、次の事実が認められる。

奥村土木の奥村繁雄は瀬棚郡北檜山町字貉岱における道路工事に使用するため、当時上磯郡木古内町にあつた奥村土木所有のブルドーザー(三菱BD一一型)を同所まで運搬するについて運送業者をさがしたところ、結局樋口時正なる者の斡旋により原告においてこれを引受けることとなつた。しかし右運送契約がまとまるまでに、木古内から貉岱へ至る運送経路になる道路について、江差を経由して日本海側を行く道路は道路状況がよくないので原告は代表者梶村金蔵がこれを経由することを承諾せず、函館を経由して一級国道を北上することとしたが、貉岱まで輸送する場合にはその手前で真栄橋を渡らねばならず、同橋は弱くて危険だという理由で瀬棚郡北檜山町字日進所在の日進小学校前までこれを運送し、同所で運送されたブルドーザーをトラツクより卸し、そこからその先貉岱まではブルドーザーが自走することとし、結局木古内から函館経由で日進小学校前まで右ブルドーザーをトラツク運送すること、全装備のブルドーザーでは重すぎるので排土板等は別の車で運ぶこととし、原告の貨物自動車はその本体のみを運搬のこと、木古内町から日進まで一五〇キロの運賃を三万五〇〇〇円とする旨の運送契約が成立し、ブルドーザーの積載卸下のためブルの運転手を貨物自動車に同乗させることとした。右ブルドーザーは全装備重量は約一一トンあり、排土板やアーム等を除いたトラツクター重量は約八・九トンであつた。以上の事実が認められる。

そして成立に争いのない甲第一号証、証人岩沢一徳、同樋口時正の各証言、原告代表者本人尋問の結果を綜合すれば、右輸送に当つて排土板等は訴外横山組の車である別のトラツクに積んで先行し、その後にブルドーザーを積んだ原告の本件トラツクが走行し、函館を経由して右一級国道を北上したのであつたが、樋口は貉岱まで自己の所用で行くことを兼ねて、同人が日進付近の道路に詳しく、道案内のため途中から岩沢の運転する原告の貨物自動車の助手席に同席したのであつたが原告車の運転手岩沢は本件運送の目的地が日進小学校前までであるか、またはこれを通過してさらに先である貉岱までであるかについて確信がなく、半信半疑のまま漫然日進を通過してさらに運転を継続し真栄橋に達した、他方原告代表者梶村金蔵は本件トラツクを岩沢一徳をして運行せしめるに当り、予め運送区間は木古内から日進小学校前までであることを指示していたことが認められる。

しかし本件運送契約上の運送区間が日進小学校前までであつたにせよ、或はこれより先の貉岱までであつたにせよ、このことは運送契約上の原告と注文主との間の契約上の内部関係にすぎず、右日進小学校前までの運送は勿論、これを通過して本件真栄橋に至るまでの岩沢による原告車の運行も、原告会社の所有するトラツクをその運転手である岩沢一徳が会社の仕事をするについて運行したものであつて、全く関係のない者が恣意的に運転したという如きものではない。従つてかりに荷主側ないし樋口の指示があつたため岩沢が日進小学校前をこえてこれより先まで運行した結果として本件落橋を惹起したものであるとしても、このことは別個の事柄であつて、樋口にせよ、同乗したブルドーザーの運転手にせよ岩沢に対して右の日進小学校より先まで運行することを指示したかどうかにかかわりなく、真栄橋にさしかかつて本件原告車を運行しこの橋梁を落橋せしめるに至つた行為は、原告会社の業務について生じたものであるといわなければならない。

六、このようにして落橋した真栄橋が北海道内における二級国道の一部であることは前判示のとおりであるから、右道路の管理者は、道路法第二二条第一項により、道路を損傷した行為に因り必要を生じた道路に関する工事を行為者に施行せしめるために施行命令を発することができるわけであるが、必ずその命令を発しなければならないわけでなく、道路管理上の管理者みずからその工事を施行することができることは同法第五八条第一項により明らかであつて、その場合には同法条により工事費用につき行為者即ち落橋せしめた者に必要を生じた限度において費用の全部又は一部を負担せしめることと規定されている。本件においては原告会社に対し工事施行命令が発せられたものではなく、道路管理者がみずから工事を施行する必要があると認めてその工事を施行し、その費用負担につき、その徴収権限を建設大臣から委任された被告から原告に対して本件費用負担命令が発せられたことは弁論の全趣旨において明らかである。してみると本件負担金負担命令は道路法ならびにその附属法令に基づく公法上の処分に基づくものであつて、私法上の法律関係に基づくものではなく、私法法規が適用されるものではない。それ故、原告会社はその運転手岩沢一徳の選任監督に過失がなかつた旨主張するのであるけれども、単にそれだけの理由で右命令が適法性を失うものとはいえない(証人大西孝吉および代表者本人尋問の結果によれば、当初本件運送の目的地について会社の黒板に貉岱と書き出していたが、原告会社の業務管理者において出発する前日ごろに日進と訂正し、運転手として以前に日進方面をトラツクを運転して通つたことのある岩沢を選び、出発の前日、原告代表者梶村および訴外大西孝吉が地図(甲第一号証)を岩沢に示して経路を指示し、日進小学校前で卸すよう指示しかつ樋口も道案内として行く旨話したことを認めることができる。しかしながら本件運行に当つて岩沢運転手は目的地が日進であるか貉岱であるか半信半疑のまま運転し、真栄橋の通行に際しては五トンの重量制限なのにかかわらず、ブルドーザーを積んだトラツクの重量がこれを遥かに超えるのを知りながら(この事実は弁論の全趣旨から認められる)右橋上を通行せんとしたことさきに判示したとおりであつて、未だ原告が被用者の選任および監督につき注意を尽し、過失がなかつたものということもできない。)。次に原告は、被告に道路管理上の過失があると主張するが、本件負担命令は公法上の関係であり、私法上の過失相殺の法理を直ちに適用することはできないばかりでなく、道路管理者は真栄橋について五トンの重量制限を定め、これを標識によつて標示(標示のあつたことは弁論の全趣旨により認められる)している以上、道路管理者としてなすべき管理上の注意義務を尽くしたものというべきである。

七、さらに原告の本件損傷行為により生じた工事費用を全額原告に負担させるのは違法である旨の主張について審及するに、凡そ国道はその使用に伴つてある程度の損耗を生じるのは当然であり、これが一般使用の限界内の使用によつて通常生ずる範囲内のものである限り、これを以て道路の損傷とみることはできないから、このような一般使用は前記法条にいう「他の行為」(損傷行為)にはならないし、負担の対象とならないことはいうまでもない。しかし当該道路の本来の使用方法を逸脱して使用し、または管理者の指示した制限を無視して使用したことによつて当該道路を損壊したばあいには、このような道路損壊の原因となる行為をした者に対し、その費用をもつて当該損壊部分を原状に復せしめ、公衆の共同使用に支障がないように期するのが衡平の法理上当然の帰結である。そして、本件落橋による損壊自体については、原告会社がその業務を行うにつきこれが発生したこと前判示のとおりであり、これに影響を及ぼす行為をした者が他に存在することの証拠もない(原告の主張する重量制限をこえる車輛が本件橋梁損壊に加功した証拠ありとはなしえない。証人小野塚直樹の証言によれば、バスの運行等について、北海道函館陸運事務所は、バス路線の道路に重量制限がなされたときは、当該官署からその通知をうけ、これをバス路線を有する会社に通知すること、バスの車輛総重量がその制限を超えるときは、当該部分は乗客を降ろして通すとか或は乗り継ぎをさせるよう行政指導していることが認められるのである。)。のみならず、本件修復された橋梁は損壊した従前の橋梁の規模、構造、強度をこえるものでなかつたことはさきに認定したところから明らかであり、右の原告主張の理由によつては、本件費用の一部のみを原告をして負担せしめるのにとどめ、その全部を負担せしめるべきでないとする理由とはなしえない。殊に本件橋の復旧工事が一時的な原状への回復を目指し、費用の低廉を旨として計画施行されたことは前判示のとおりであるから、右費用の全額を原告に負担させたことに何らの違法はないものといわなければならない。

八、結局、本件負担金負担命令が違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長利正己 川上正俊 高畠由和)

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